2025年1月28日、立憲民主党は「保険証復活法案」(マイナ保険証併用法案)を衆議院に提出した。これについて解説していく。
概要
「紙の保険証」は2024年12月に新規発行が停止しており、2025年12月2日以降(またはそれ以前に有効期限が来た場合)は利用ができない。
今回提出された法案には大きく3つのことが書かれている。
- 紙の保険証の新規発行を再開する。
- 紙の保険証を利用できる期間を延長する。
- 資格確認書の交付を停止する。
マイナ保険証に係る問題が多発して信頼が損なわれていること、マイナ保険証の利用率が低いこと等を鑑みて、従来の「紙の保険証」を引き続き利用できるようにする。それによって「誰もが必要な時に、確実に医療を受けられる体制を堅持する」ということだ。医療情報のデジタル化に消極的なわけではなく、国民の理解を得ながらマイナ保険証への切り替えを進めていくべきだとの考えだ。
マイナ保険証の利用率が低いのは、まだ「紙の保険証」が使えるから
2025年1月現在、「紙の保険証」の新規発行はされていないが、すでにある「紙の保険証」は12月まで使用できる。または有効期限が来るまでは使用できる。つまりは移行期間である。「マイナ保険証の利用もできるが、慣れている紙の保険証を出す」という人は多いのではないだろうか。
多くの医療機関でマイナ保険証の読み取り機を見かけるようになってきているが、マイナ保険証に対応せず従来の「紙の保険証」のみに対応している医療機関も少なからずある。今から行く医療機関がマイナ保険証に対応しているかどうか分からない場合、どちらでも対応できるようにマイナ保険証と紙の保険証の両方を持っていかざるを得ない。また、マイナ保険証の読み取り機が設置されているものの、電源が入っていなかったり、受付担当者が紙の保険証を要求する場合もあるため、マイナ保険証を出しづらいと感じることもある。
この状況はいい状況とは言えないが、「紙の保険証」が有効期限を迎えるか廃止期限が迫ってくるにつれてマイナ保険証の利用は徐々に増えていくだろう。現時点でのマイナ保険証利用率が低いのは事実だが、移行期間は利用率が急増するものではなく徐々に増えていくものだ。
紙のカードがいいなら「資格確認書」が既にある
順次届きつつある「資格確認書」は紙のカードだ。この資格確認書は5年以内の有効期限を持ち、マイナ保険証の代わりに医療機関で提示することができる。2025年12月以降も使用できる。
立憲民主党の法案では「資格確認書の発行は停止」「紙の保険証は新規発行」としている。どちらも紙のカードであり、マイナ保険証のように利用者本人によるデジタルな機械操作は必要ない。資格確認書は、紙の保険証と同様に使用できるものだ。
資格確認書の発送はすでに始まっており、マイナ保険証を利用しない人向けの、いわば「新しい紙の保険証」はすでに存在する。様々な事情でマイナ保険証を利用できない人も、資格確認書が利用できる。
このような状況において、わざわざ資格確認書の発行を停止して従来の紙の保険証を復活させたい理由は何だろうか。その理由は「不安の払拭」だ。マイナ保険証と同時に登場した資格確認書には、それ自体は「紙でできたカード」であるものの、マイナ保険証と同じものだというイメージがある。マイナ保険証に不安を感じている人にとって、資格確認書も「よく分からない・理解できない・不安なもの」と感じられることだろう。一方で従来の「紙の保険証」は安心して使えると考えるだろう。だが資格確認書も実質同じものだ。「いずれ使わなくなる紙の保険証」を復活させて資格確認書の発行を停止する、それに係る事務作業や社会の混乱といった大きなコストが、イメージでしかない不安を払拭するためだけに使われるのが正しいことだとは思えない。
なお、わざわざ従来の「紙の保険証」を廃止して似たような「資格確認書」が登場した理由については別の機会に解説したい。
保険証の不正利用
従来の「紙の保険証」は他人になりすまして医療を受けることが容易であり、また1つの症状について複数の医療機関を受診し同じ薬を大量に入手して転売することも可能だ。このような不正利用は問題であり、マイナ保険証が普及することによってこれらの不正利用を少なくしていくことができる。従来の「紙の保険証」が使われ続けた場合、マイナ保険証の利用率が増えず、不正利用を防止することができない。
これらの不正利用によって、多くの人が納める社会保険料は不正利用者のもとに流れてしまう。少子高齢化の進行により社会保険料負担の増加が強いられる中、不正利用は絶対に減らさなければならない。立憲民主党は「国民の不安を払拭できるまでは紙の保険証を使い続けられるようにする」と言っているが、多くの現役世代は社会保険料負担が増えることに不安を感じている。この法案は現役世代の不安に寄り添っていると言えるだろうか。
まとめ
立憲民主党が提出した「保険証復活法案」について気になるポイントを解説した。マイナ保険証はいきなり始まったものではなく、何年も準備を重ねてきているものであり、現在は移行期間である。それをまた元の古い状態に戻すのにどれだけの労力がかかり、再度移行期間をやり直すのにもかなりの労力を要する。日本を取り巻く経済状況や国際情勢が厳しくなる中、「紙の保険証の復活」がそれほど重要なのか、立憲民主党には今一度考えなおしていただきたい。